平成30年度(第50回)の社労士(社会保険労務士)試験の合格率は6.3% (平成29年度6.8%)であった。
社労士試験は総得点数が高得点でも、たった1つの科目が合格基準点に1点でも足りないと不合格になる。
その合格基準となる点数はあらかじめ決まっているわけではなく、試験結果で変動する。
だから合格を目指すためには、過去の試験結果の分析が重要である。
合格基準点の決定方法
合格基準はどうやって決定されているのだろうか?
合格基準の決定方法は、厚生労働省ホームページで発表されている。
参考1
社会保険労務士試験の合格基準の考え方について
1 合格基準点
合格基準については、国民に分かりやすい簡易なものとすることが望ましいことから、平成12年度より、出題形式(選択式40問、択一式70問)、過去の合格基準の動向及び他の試験制度の現状を考慮し、次の条件を合格基準点とした。
選 択 式 試 験 総得点 40点中 28点以上(12年度平均点 25.9点) ※満点の7割以上
各科目 5点中 3点以上 択 一 式 試 験 総得点 70点中 49点以上(12年度平均点 35.1点) ※満点の7割以上
各科目 10点中 4点以上 2 年度毎の補正
上記合格基準点については、各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから、試験の水準を一定に保つため、各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。
(1) 総得点の補正
- 選択式試験、択一式試験それぞれの総得点について、前年度の平均点との差を少数点第1位まで算出し、それを四捨五入し換算した点数に応じて前年度の合格基準点を上げ下げする(例えば、差が△1.4点なら1点下げ、+1.6点なら2点上げる。)。
- ※ 前年の平均点との差により合格基準点の上下を行うが、前年に下記③の補正があった場合は、③の補正が行われなかった直近の年度の平均点も考慮する。
- 上記①の補正により、合格基準点を上下させた際、四捨五入によって切り捨て又は繰り入れされた小数点第1位以下の端数については、平成13年度以降、累計し、±1点以上となった場合は、合格基準点に反映させる。ただし、これにより例年の合格率(平成12年度以後の平均合格率)との乖離が反映前よりも大きくなった場合は、この限りではない。
- 下記(2)の各科目の最低点引き下げを2科目以上行ったことにより、例年の合格率と比べ高くなるとき(概ね10%を目安)は、試験の水準維持を考慮し合格基準点を1点足し上げる。
(2) 科目最低点の補正
各科目の合格基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。
ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないこととする。
ⅰ) 引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上の場合
ⅱ) 引き下げ補正した合格基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合
出典: [参考1] 社会保険労務士試験の合格基準の考え方について(PDF:59KB) (厚生労働省)を加工して作成
合格基準の考え方は、初めて読むと難しく感じると思うが、考え方は非常に単純である。
合格基準点の決定方法の概略総得点は前年度の平均点との差を計算して、その点数に応じて前年度の合格基準点を上下させる。
各科目の点数(合格基準点)は、選択式3点、択一式4点。しかしこの合格基準点以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、選択式で2~1点、択一式で3点に引き下げ補正することもある。
平成30年度の社労士試験の合格基準と試験結果
先ほど記載したように、社労士試験の合格基準は試験結果に応じて変動する。
平成30年度の合格基準と試験結果の関係について調べてみる。
平成30年度の社労士試験の合格基準
平成30年度の社労士試験の合格基準は、下記の通りである。
平成30年度社労士合格基準
総得点 | 各科目 | |
選択式試験 | 23点以上 | 社会保険に関する一般常識・・・2点以上 国民年金法・・・2点以上 その他・・・3点以上 |
択一式試験 | 45点以上 | 全科目・・・4点以上 |
出典:[参考2] 第50回(平成30年度)社会保険労務士試験の合格基準について(PDF:63KB)(厚生労働省)
平成30年度の社労士試験の結果と合格基準点の関係
最初に総得点、次に各科目の合格基準点と試験結果の関係について調べる。
各科目の得点は厚生労働省のホームページ([参考3] 第50回(平成30年度)社会保険労務士試験科目得点状況表(PDF:134KB))で発表されている。
社労士試験の合格基準点(総得点)
総得点の合格基準点の算出方法は、非常にシンプルである。
前年度の平均点との差を少数点第1位まで算出し、それを四捨五入し換算した点数に応じて前年度の合格基準点を上下させている。
選択式試験
選択式試験の総得点の合格基準
試験年度 | 平均点(前年度比) | 合格基準点 |
平成12年度 | 25.9点(0点) | 28点以上 |
・・・ | ・・・ | ・・・ |
平成28年度 | 20.5点(+1.9点) | 23点以上 |
平成29年度 | 21.3点(+0.8点) | 24点以上 |
平成30年度 | 20.5点(-0.8点) | 23点以上 |
平成30年度は、平成29年度より平均点が0.8点下がり、四捨五入した1点を平成29年度の合格基準点より下げている。
平成29年度は平成28年度より平均点が0.8点上がり、平成30年度は0.8点下がったので、平成30年度の合格基準点は平成28年度と同じになった。
択一式試験
択一式試験の総得点の合格基準
試験年度 | 平均点(前年度比) | 合格基準点 |
平成12年度 | 35.1点(0点) | 49点以上 |
・・・ | ・・・ | ・・・ |
平成28年度 | 28.8点(-2.5点) | 42点以上 |
平成29年度 | 31.9点(+3.1点) | 45点以上 |
平成30年度 | 32.1点(+0.2点) | 45点以上 |
平成30年度は、平成29年度より平均点が0.2点上がったが、四捨五入すると0点になり平成29年度の合格基準点と同じになった。
社労士試験の合格基準点(各科目の点数)
各科目の合格基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、各科目の合格基準点が引き下げ補正される場合があるので、総得点の場合より算出方法は少し複雑である。
選択式試験
平成30年度選択式試験の各科目の得点状況
試験科目 | 得点割合(%) | ||
5点~3点 | 2点 | 1点~0点 | |
労働基準法及び 労働安全衛生法 | 49.0% | 30.0% | 21.0% |
労働者災害補償保険法 | 81.9% | 13.9% | 4.2% |
雇用保険法 | 57.6% | 14.3% | 28.1% |
労務管理その他の労働 に関する一般常識 | 41.8% | 30.9% | 27.3% |
社会保険に関する 一般常識 | 36.6% | 27.4% | 36.0% |
健康保険法 | 61.9% | 22.1% | 16.0% |
厚生年金保険法 | 49.6% | 26.7% | 23.7% |
国民年金法 | 29.9% | 23.4% | 46.7% |
選択式試験の場合、3点以上の受験者の占める割合が5割に満たない科目は、合格基準点の引き下げ補正の候補となる。
今回の場合は、下記5科目が候補となった。
- 労働基準法及び労働安全衛生法
- 労務管理その他の労働に関する一般常識
- 社会保険に関する一般常識
- 厚生年金保険法
- 国民年金法
しかし引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上の場合、引き下げ補正はされないという例外がある。
今回の場合、労働基準法及び労働安全衛生法、労務管理その他の労働に関する一般常識、厚生年金保険法は2点に合格基準点を引き下げると、受験者の占める割合がそれぞれ79.1%(49.0+30.1)、72.7%(41.8+30.9)、76.3%(49.6+26.7)になり7割以上になってしまうので引き下げ補正は実施されなかった。
一方社会保険に関する一般常識と国民年金法は2点に合格基準点を引き下げても、受験者の占める割合がそれぞれ64.0%(36.6+27.4)、53.4%(30.0+23.4)で7割以上にならないので合格基準点が2点に引き下げ補正された。
択一式試験
平成30年度択一式試験の各科目の得点状況
試験科目 | 得点割合(%) | ||
10点~4点 | 3点 | 2点~0点 | |
労働基準法及び労働安全衛生法 | 71.7 % | 13.6% | 14.7% |
労働者災害補償保険法 (労働保険の保険料の 徴収等に関する法律を 含む。) | 75.2% | 12.1%
| 12.7% |
雇用保険法 (労働保険の保険料の 徴収等に関する法律を 含む。) | 71.9% | 14.5% | 13.6% |
労務管理その他の労働 及び社会保険に関する 一般常識 | 52.3% | 21.6% | 26.1% |
健康保険法 | 73.0% | 13.1% | 13.9% |
厚生年金保険法 | 64.6% | 16.3% | 19.1% |
国民年金法 | 57.1% | 18.5% | 24.4% |
択一式試験の場合、4点以上の受験者の占める割合が5割に満たない科目は、合格基準点の引き下げ補正の候補となる。
しかし、今回そのような科目が無かったので、合格基準点の引き下げ補正は実施されなかった。
平成30年度社労士試験で難易度が高かった科目
平成30年度社労士試験で一番難しかった科目は何だろうか?
選択式、択一式試験の平均点、合格基準点未満の受験者の占める割合を調べてみた。
選択式試験で難易度が高かった科目
選択式試験で平均点が一番低い試験は、国民年金法で1.8点であった。
得点が低いという意味では、国民年金法が選択式試験で一番難しい試験科目であった。
合格基準点は、引き下げ補正が行われることがある。国民年金法は合格基準点が2点に引き下げられたことにより、合格基準点未満の受験者の占める割合が一番高い科目は、労務管理その他の労働に関する一般常識であり58.2%であった。
選択式試験で合格基準点未満の受験者の占める割合が5割を超えている科目は、
- 労働基準法及び労働安全衛生法
- 労務管理その他の労働に関する一般常識
- 厚生年金保険法
の3科目であった。
総得点は合格基準を満たしていても、これらの科目で不合格となった受験者は多いと推定される。
平成30年度選択式試験科目ごとの平均点と合格基準点未満の受験者の占める割合
試験科目 | 平均点 | 合格基準点を満足していない受験者割合 |
労働基準法及び 労働安全衛生法 | 2.5点 | 51.0%(2点以下の受験者割合) |
労働者災害補償保険法 | 3.4点 | 18.1%(2点以下の受験者割合) |
雇用保険法 | 2.9点 | 42.4%(2点以下の受験者割合) |
労務管理その他の労働 に関する一般常識 | 2.3点 | 58.2%(2点以下の受験者割合) |
社会保険に関する 一般常識 | 2.1点 | 36.0%(1点以下の受験者割合) |
健康保険法 | 3.0点 | 38.1%(2点以下の受験者割合) |
厚生年金保険法 | 2.5点 | 50.4%(2点以下の受験者割合) |
国民年金法 | 1.8点 | 46.7%(1点以下の受験者割合) |
択一式試験で難易度が高かった科目
択一式試験で平均点が一番低い試験は、労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識で3.7点であった。
合格基準点は、引き下げ補正が行われることがあるが、今回は実施されなかった。合格基準点未満の受験者の占める割合が一番高い科目は、労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識47.7%であった。
平成30年度択一式試験科目ごとの平均点と合格基準点未満の受験者の占める割合
試験科目 | 平均点 | 合格基準点を満足していない受験者割合 |
労働基準法及び 労働安全衛生法 | 4.9点 | 28.3%(3点以下の受験者割合) |
労働者災害補償保険法 (労働保険の保険料の 徴収等に関する法律を 含む。) | 5.1点 | 24.8%(3点以下の受験者割合) |
雇用保険法 (労働保険の保険料の 徴収等に関する法律を 含む。) | 4.7点 | 28.1%(3点以下の受験者割合) |
労務管理その他の労働 及び社会保険に関する 一般常識 | 3.7点 | 47.7%(3点以下の受験者割合) |
健康保険法 | 5.0点 | 27.0%(3点以下の受験者割合) |
厚生年金保険法 | 4.5点 | 35.4%(3点以下の受験者割合) |
国民年金法 | 4.1点 | 42.9%(3点以下の受験者割合) |
平成30年度社労士試験結果まとめ
平成30年度の合格率は6.3% (平成29年度6.8%)で、昨年度と同程度の合格率であった。
選択式試験で平均点が一番低い科目は、国民年金法で1.8点(5点満点)であった。また合格基準点未満の受験者の占める割合が一番高い科目は、労務管理その他の労働に関する一般常識であり58.2%であった。各科目の合格基準点の引き下げ補正は、社会保険に関する一般常識と国民年金法で実施され2点となった。
択一式試験で平均点が一番低い科目は、労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識で3.7点(10点満点)であった。また合格基準点未満の受験者の占める割合が一番高い科目は、労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識47.7%であった。各科目の合格基準点の引き下げ補正は実施されなかった。
今回の選択式試験では、合格基準点未満の受験者の占める割合が5割を超えている科目は、
- 労働基準法及び労働安全衛生法
- 労務管理その他の労働に関する一般常識
- 厚生年金保険法
の3科目あった。
一方で択一式験では、合格基準点未満の受験者の占める割合が5割を超えている科目はなかった。
このことから、社労士試験の合否は、選択式試験の出来に左右されると言っても過言ではないと思う。
次回の試験で受験される方の健闘を祈ります。